フランス人の日常生活に欠かせない場所
パリを歩いていて、一番見かける店と言えばパン屋かもしれません。概算ではパリ市内に約1,200軒以上のパン屋があるそうです。店の看板に「ブーランジェリー・パティスリー」"Boulangerie-patisserie"(パン・菓子製造店)と書かれているお店がパン屋で、通常はケーキも一緒に売られています。パリのどの界隈にも必ずパン屋はあり、日常生活をする誰もがほぼ毎日パン屋に出かけます。どの店も閉まるバカンスの時期でさえ、どこかしらのパン屋は営業していて、パンを買えるようになっています。また、フランス人の子供たちが最初にするお手伝いは、パン屋にバゲットを買いに行くことだと言われています。フランスパン連盟によると、バゲットはフランス国内で年間60億本以上も売られているそうです。
このように、パリに住む人にとってバゲットとパン屋はなくてはならない生活の一部です。
フランスの朝ごはんはカフェオレ(ミルク入りコーヒー)にバターを塗ったフランスパン(tartine de beurre)かクロワッサン(croissant)が主流で、甘いものが好きな人はパンにジャム(confiture)を塗って食べたりします。おやつにはココア(chocolat)とバゲット(baguette)にバターを塗ってハムを挟んだサンドイッチ(jambon beurre)を食べるのが人気です(最近のフランスではフランス製サンドイッチよりもアメリカ製ハンバーガーの売上の方が多いそうです)。昼は肉や魚がメインですが、夕食にはパンとスープをよく食べます。このように、フランス人の食生活にパンは欠かせないもので、そのため朝に一番早く開くお店もパン屋さん(たいていは朝7時から営業)。パン屋はパリの朝の始まりに必要な場所といえるでしょう。
バゲットがユネスコの世界遺産に
2022年11月30日、フランスパン「バゲット」がユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。この知らせを受け、マクロン大統領はバゲットを「250グラムの魔法と完璧な日常生活」と表現しました。パン職人の伝統技術とフランス人が長い間続けてきた生活様式が高く評価された結果となりました。
フランスパンとは?
フランスパンと聞いて多くの人は「バゲット」と呼ばれる細長い棒状のパンをイメージするのではないでしょうか。たしかにバゲットはフランスの代表的なパンですが、それ以外にも様々な形のパンがあります。そもそもフランスパンとは日本人が作り出した和製仏語で、フランスでは単に「パン」(pan)と呼ばれます。フランスのパンの定義は小麦・塩・酵母・水のみを使ったもので、卵やバター、砂糖は含まれません(卵やバターが入ったものはお菓子に分類されます)。外側は皮が固く、中は気泡のはいった粘着力のある食感になっているのが特徴です。日本でも有名なクロワッサンはパリのパン屋で必ず売られているものですが、これはウィーン発祥の菓子パンなので、フランスのパンではなくヴィエノワズリー"Viennoiserie"(ウィーン風菓子)と呼ばれます。
パンの種類
フランスパンと聞いて最初にイメージするのはバゲットですが、形状によって様々な種類があります。日本でもよく見かける棒状のパンは「バゲット」(baguette)。バゲットとはフランス語で「棒」を意味します。それよりも太くて短いのが「バタール」(batard)。バタールとはフランス語で「雑種、中間、折衷」を意味します。バゲットよりも大きくて長さもあるのが「パン・パリジャン」(pain parisien)。パン・パリジャンは名前のとおり「パリのパン」を意味します。他にも「田舎風」という意味を持つ丸形の「パン・ド・カンパーニュ」(pain de campagne)や大きな丸形パンである「ミッシュ」(miche)、「ブール」(boule)、
トースト用の食パン「パン・ドゥ・ミ」(pain de mie)、「細ひも」という意味を持つ細長い小型パン「フィセル」(ficelle)などがあります。
バゲットの長さは法律で決まっている
パンが国民食であるフランスではバゲットの長さや重さが法律で決まっています。バゲットの長さは80センチ、重さは300グラムとされています。また大きなパンの重さは1キロで、客の要望によって定められた価格で量り売りをしなければならないとされています。平等の国フランスならではの法律ですね。
バゲットの値段は?
バゲットの値段は他のパンと比べて安く、どのパン屋でもだいたい1ユーロ程度です。1986年までは定価で売られていました。しかし最近ではフランスの農村部の人口減少により、地方各地のパン屋は姿を消しつつあり、バゲットの価格高騰など多くの社会的な問題も残っています。
地元の社交場としてのパン屋
パリのパン屋は、食事としてのパンを買う以外にも重要な役割をもっています。それはその界隈の人々のコミュニケーションの場所という側面です。焼き立てのパンを買うために多くの人が朝早くからパン屋に並びます。並んでいる間に近くの人と話すことで、地元の人と顔なじみになることができます。またフランスのパン屋は日本と違って店の人に欲しいパンを伝えて取ってもらうスタイルのため、自然と店のスタッフと会話が生まれます。そのため、パン屋に行くと買い物客やパン屋さんと会話をする機会が増え、世間話をしたりその界隈の情報を交換することができます。このようにパリのパン屋はパンを買うだけではなくその界隈の社交場としての役割も持っているのです。
パリのおすすめパン屋
パリにはたくさんのパン屋があり、どのパン屋も美味しいです。それはフランスの良質な小麦と水を使っているからで、全てのパン屋が自分たちの技術に誇りをもってパンを作っているからです。そのため、美味しいパン屋を紹介することは難しく、どのパン屋も美味しいというしかありません。ただ、その中でも注目されているパン屋を紹介します。パリに行った際の参考としてご利用ください。