サン・マルタン運河からラ・ヴィレット貯水池へ

プラタナスの木々が茂る心地よい運河を散策

散策の出発地点はメトロのレピュブリック駅から。目の前にレピュブリック広場がある駅で、複数の線が走っているので観光の拠点に最適です。駅を出ると目の前には共和国の象徴とされているマリアンヌの像が見えます。ここはかつてパリの境界だった場所です。まずはかつての境界の外に向かって続くフォブール・デュ・タンプル通り（Rue du Faubourg du Temple）を歩きます。途中にはショーとスタンドアップが楽しめる伝統的なアポロ劇場があります。ジュール・フェリー大通り（Bd Jules Ferry）に出ると、すぐにサンマルタン運河の風景が見えてきます。ここがサンマルタン運河の端となっていますが、実際には暗渠化した運河が続き、下流のセーヌ川に注いでいます。運河を囲む小さな公園（square Frederick-Lemaitre）に入り、運河沿いを上流に向かって歩きましょう。春・夏であればプラタナスの木々が美しい木漏れ日を作り出し、快適な木陰の散策が楽しめます。

のどかな太鼓橋のある風景

細かった運河が広がった場所に架かっているのがPasserelle des Douanesという歩行者専用の太鼓橋。サンマルタン運河には複数の太鼓橋が架かっていて、運河を運航する船が通れるように大きく弧を描いた形になっています。太鼓橋の下にある立ち入り禁止の小さな通路は映画『アメリ』で不思議ないたずらっ子の主人公アメリが石切りをしたことで有名になりました。ここから運河が本格的に始まり、両岸では心地よい時間を楽しむフランス人たちが自由なひとときを過ごしています。お酒を飲みながら友人や恋人たちと語り合ったり、静かなに読書をする人も多いです。運河沿いの道路と水面がかなり近く、水辺に最も近い夏オススメのエリアとも言えそうです。

運河散策の合間にカンボジア料理を味わう

サンマルタン運河周辺は学生やエコロジー生活をする富裕層が好む場所のため、手ごろな価格のレストランやおしゃれな雑貨店・書店などもたくさんあります。運河散策のついでに食事をしたり買い物をするのもオススメです。その中でもおすすめのレストランはLe Cambodge（ル・カンボジ）。本格的なカンボジア料理を手ごろな価格で味わえるカジュアルな雰囲気のレストランです。パリではベトナム料理と中国料理のお店は多いですが、カンボジア料理のレストランは比較的珍しく、また料理が本当に美味しいのでフランス人に人気。近くには2号店としてle Petit Cambodge（ル・プティ・カンボジ）もあります。麺類が豊富でどれも日本人に合う味なので、重たいフランス料理で胃が疲れ気味の方にはおすすめのレストランです。

映画『北ホテル』の舞台になった下町運河

運河沿いを歩いていると、鮮やかな空色の太鼓橋が目に入ってきます。ここはアルレッティ歩道橋（Passerelle Arletty）。橋の名前はフランスの女優アルレッティ（1898-1992）からとられています。マルセル・カルネ監督の映画『北ホテル』に出演した女優として知られていて、映画の中では娼婦の役を演じました。橋のすぐ近くの運河沿いにHotel du Nordというホテルがあり、ここが映画の舞台となっています。実際にはセットが作られたので、撮影した場所は別ですが、物語はこのホテルを舞台に進んでいきます。ウジェーヌ・ダビの小説『北ホテル』を原作としたこの映画は、パリの貧しい労働者たちを描いた物語。当時このホテルは食事付きの安アパートのような場所で、労働者や街のチンピラ、娼婦のような人々が集まっていました。下町の運河を風景にして、死を望む彼らのつらい人生と様々な恋の模様が描かれています。現在北ホテルは観光地化されていて、レストランとして営業しています。

パリジャンの憩いの場 ヴィルマン庭園

運河をさらに上流へ歩いて行くと、運河は大きくカーブし、左手に大きな緑地が見えてきます。ここはヴィルマン庭園（Jardin Villemin）で、いつも多くのパリジャンが集まっています。面積の広いこの緑豊かな庭園は、もともと17世紀に建てられたレコレ修道院の敷地でした。その修道院の一部が今でも園内に残っています（修道院の一部はCafeAという穴場のカフェになっています）。アンリ4世の時代にできた修道院はその後、不治の病となった人々の最期を看取る病院となり、世界大戦時には軍事病院として利用されました。

運河沿いのギャラリーへ

また、運河の途中には様々なギャラリーが点在しています。おすすめはポワン・エフェメール"Point Ephemere"。サン・マルタン運河沿いにある現代アートのギャラリーです。サンマルタン運河を歩いているとヴァルミー河岸沿いに突然倉庫のような建物が現れます。もともとは本当に運河沿いの資材用倉庫でしたが、芸術家たちがアトリエとして不法占拠（スクワット）し、その後パリ市の文化センターとしての機能を持つようになりました。倉庫を改造したおしゃれなギャラリーで、現代作家の絵や写真を展示しています。ギャラリーの横にはカフェも併設。アート鑑賞をした後は、併設のカフェで運河を眺めながら一休みというのもいいですね。

運河の終わりにある不思議な建築物

そろそろ運河散策も終わりに近づきます。一旦運河が姿を消し、鉄道の高架が線路が見えてきます。ここはパリで珍しい地上を走るメトロの線路。高架下をくぐると再び運河が現れますが、ここでサンマルタン運河は終わりとなり、ここから先はラ・ヴィレット貯水池になっています。貯水池の前に不思議な円筒形の建物があります。これはロトンド・ド・ラ・ヴィレット（ヴィレットの円形建物）と呼ばれるもので、フランス革命直前に建てられた入市税の関所でした。当時ここには城壁があり、パリと郊外の境界となっていました。今では城壁はなくなり、この円形の建物だけが残っています。パリの歴史の一部を見られる貴重な建物で、現在パリの歴史史跡に登録されています。

ラ・ヴィレットへ

ラ・ヴィレット貯水池はサンマルタン運河とさらに上流のウルク運河を結ぶ人工池で、周辺には様々なレストランやバー、複合映画館（MK2）などがあります。かつてラ・ヴィレットはフランドル地方につながる途中に存在したガロ・ローマの村落で、フランス革命時に市となり、1860年にパリに併合されました。貯水池のさらに先には先進的な施設と野外映画イベント等で有名なラ・ヴィレット公園があります。 ラ・ヴィレット貯水池を散策したら、スターリングラード駅へ。ここで今回の散策は終了です。この界隈は移民街として有名で、アフリカ系移民が多く住んでいます。一般的には治安が悪いとされていますが、異国的な雰囲気と混沌とした活気に満ちた魅力的な地区で、パリの多様性を知る上では是非訪れたいエリアです。パリ北駅と東駅も近いので、余裕のある方はそちらまで足を伸ばしてみるのもいいかもしれません。さらに運河を楽しみたい方は、遊覧船に乗りながらサンマルタン運河の眺めを体験してみるのもいいですね。