サン・マルタン運河の終点にある不思議な円形の建物
サン・マルタン運河を北に歩いていくと、その終点には人工の貯水池があります。ここはラ・ヴィレットと呼ばれる運河めぐりの終点です。ここに不思議な円形の建物があります。これはロトンド・ド・ラ・ヴィレット(ヴィレットの円形建物)と呼ばれるもので、フランス革命直前に建てられた入市税の関所でした。当時ここには城壁があり、パリと郊外の境界となっていました。今では城壁はなくなり、この円形の建物だけが残っています。この建物は、現在パリの歴史史跡に登録されています。
徴税請負人の壁
16世紀以降、パリの街は急速に膨張・発展を続け、城壁の建築が追いつきませんでした。そのためパリの境界は長い間曖昧なままになっており、市は税金の徴収方法に頭を悩ませていました。そこで1783年、入市税の徴収を確実にするために、パリの境界に新たな壁を作ることが決まりました。それは「徴税請負人の壁」呼ばれ、この時初めてモンマルトルやベルヴィルといった田舎がパリに組み込まれました。パリでは今までにも壁は作られてきましたが(
フィリップ・オーギュストの城壁、シャルル5世の城壁)、軍事目的ではないパリの壁はこれが初めてでした。フランス革命を経て19世紀半ばまで、パリに入る際にはこの壁の前で入市税を支払わなければならず、商人や市民にとっては非常に手間のかかるものでした。長年人々を苦しめてきた壁も1860年のパリ市拡張に伴ってついに壊されました(壁の跡地はのちに大通りになりました)。しかし、その名残をパリのいくつかの場所で見ることができ、ラ・ヴィレットもその一つです。ここはちょうど壁が通っていた箇所に当たり、入市税関として使われていた貴重なロトンド(円形建物)が今も残っています。
設計したのは幻視の建築家クロード・ニコラ・ルドゥー
ロトンド・ド・ラ・ヴィレットは、「幻視の建築」と呼ばれるフランス革命期の建築家クロード・ニコラ・ルドゥー(Claude Nicolas Ledoux, 1736-1806)によって作られました。今見ても斬新な自由奔放な建築デザインした日本でも人気の建築家です。革命前は王室建築家でしたが、革命期に投獄されてしまいます。しかし多くの想像力豊かなスケッチを残し、その中にはピラミッド型や円形の奇抜な建物もありました。有名な建築作品はフランス東部アル=ケ=スナンにある王立製塩所。工業都市の理想像を追求し円形の都市を構想しましたが、半円形で工事が中断されました。現在は世界遺産として保存されています。
目の前には飲料貯水場。19世紀パリの水事情
ロトンド・ド・ラ・ヴィレットの目の前には大きな噴水があり、その先にはヴィレット貯水場が広がります。19世紀の当時、セーヌの汚れた水を飲んでいたパリの衛生環境をどうにかしたいと考えていたナポレオン3世は、パリ北東にあったウルク川をパリ市内に移し、ラ・ヴィレット貯水場を建設しました。オスマンが知事になったときには、すでにセーヌ河と並ぶ重要な水の供給源となっていました。しかしウルク川の水質もよくはなく、その後オスマンによってさらに北のデュイス川から長大な水道によって水が引かれることになります。
運河散策のついでに最適!近くには映画館も
ロトンド・ド・ラ・ヴィレットは、スターリングラード駅のすぐ目の前。パリ19区のスターリングラードの戦い広場にあり、サン・マルタン運河とヴィレット貯水池の結合点に建っています。『アメリ』で有名なサン・マルタン運河の終点にあるので、運河散策のついでに立ち寄るのもいいかもしれません。北にはヴィレット貯水池があり、そのさらに先には最先端の施設がそろう
ヴィレット公園があります。野外映画祭も開かれる解放感あふれる公園です。ヴィレット貯水池には最新の映画館MK2もあり、水辺の遊べるスポットとして若者に人気。水辺沿いには魅力的なカフェやレストランが並び、広い世代のパリジャンが集まって自分だけの時間を過ごしています。南に行けば北駅と東駅もあり、余力があれば活気あふれる移民街を歩くのもいいかもしれません。