エコール・デ・ボザール
École nationale supérieure des beaux-arts

フランスで最も有名な国立美術学校

パリのボナパルト通りを歩いていると、2つの胸像が乗った大きな門があります。一見なんの施設か分かりませんが、門の中には衛兵所のような場所が見えます。ここはパリの画学生が通うエコール・デ・ボザール（パリ国立高等美術学校）。フランスで最も有名な美術学校です（日本で言えば「芸大」のような位置づけになります）。パリに最初に設立された高等美術学校で、350年以上にわたる歴史と伝統があります。毎年各種のコンクールが開催され、優秀な学生には賞が与えられます。そのなかでも19世紀の芸術家たちにローマ遊学の機会を与えたグラン・プリ・ドゥ・ローム（ローマ大賞）は有名です。正面の門柱に置かれているのはニコラ・プッサンとピエール・ビュジェの胸像です。観光地ではありませんが、多くの画家や彫刻家を世に送り出した、芸術の都パリには欠かせない施設。この学校の界隈を歩けば、カンバスを抱えた未来の若き画家に出会えるかもしれません。観光客向けの画家が集まるテルトル広場（モンマルトル）とは異なるアカデミックな雰囲気が漂っています。

ルーツはルイ14世が創設したアカデミー

エコール・デ・ボザールの始まりは17世紀。ルイ14世が1648年に設立した王立絵画彫刻アカデミーが元になっています。このアカデミーはフランス革命期の1792年に解体されましたが、1816年にその後継組織としてアカデミー・デ・ボザール (Academie des Beaux-Arts) が創設されました。これが現在もあるエコール・デ・ボザールの始まりで、このときに現住所でもあるセーヌ川近くの校舎ができました（閉鎖されたフランス文化財博物館の建物を利用しています）。4年後の1820年には新校舎も建てられました。当初は学べる科目が絵画・彫刻・版画・建築の4部門でしたが、1968年に当時の文化相だったアンドレ・マルローが建築教育機関UPAを作ったことで、建築部門は切り離されました。王立絵画彫刻アカデミーの伝統は21世紀になっても続き、2017年には200周年を祝うイベントが開催されました。ルイ14世の意思から始まった美術の学校は、今も多くの芸術家を輩出しています。

芸術や文化の中心地サン・ジェルマン・デ・プレ

エコール・デ・ボザールのあるサン・ジェルマン・デ・プレ界隈は文化人や知識人などのインテリがカフェに集まる知的なエリアとして知られています。また国立の芸術アカデミーや私塾アカデミー・ジュリアンがある芸術地区でもあります。20世紀初頭にモンパルナスで作られた芸術家コミュニティが1929年の世界恐慌やドイツのパリ占領を機に解体し、1930年代から40年代にかけてサン・ジェルマン・デ・プレがパリの芸術家たちの拠点となり、現在も多くのギャラリーが営業しています。そんな土地にあるエコール・デ・ボザールは画家や彫刻家を目指す学生にとっては、この上なく素晴らしい環境で、街中にある伝統的アートや前衛的アートを見ることで、作品作りの刺激になっているようです。

多くの有名画家を輩出した

静かな熱情をもったパリの画学生たちはここのアトリエに通い、先生から指導を受けながら孤独の中で作品を作っていきます。お世辞にも清潔で美しい建物とは言えませんが、ここは画学生にとって神聖な場所。カリキュラムは画家と彫刻家を育成するための「絵と彫刻アカデミー」と建築家を育成するための「建築アカデミー」の2つに分類され、生徒は自分の目指したい作品を自由に作っていくことができます。エドガー・ドガ、ウジェーヌ・ドラクロワ、ドミニク・アングル、クロード・モネなど、世界的に有名になった多くの画家がボザールで学びました。

世界で一番環境に恵まれた美術学校

エコール・デ・ボザールは世界で最も環境に恵まれた美術学校といえるかもしれません。学校の前にはセーヌ川が流れ、そこに架かる芸術橋を渡ればすぐにルーヴル美術館があります。またセーヌ川をヴォルテール河岸沿いに歩けばオルセー美術館もあり、世界有数の美術館が歩いて行ける場所に2つもあります。ここまで美術館に恵まれたロケーションの美術学校は世界でもなかなか存在しません。エコール・デ・ボザールの学生たちは、美術を学ぶには非常に素晴らしい環境にあると言えるでしょう。