チュイルリー公園
チュイルリー公園の特徴:セーヌ沿いにあるフランス式の美しい庭園
ルーヴル美術館の西側はセーヌ川に沿って庭園が広がっています。整然としたフランス様式の庭園はチュイルリー公園として市民の憩いの場になっています。パリ最古の公園として知られ、広々とした園内には美しい噴水と植物が植えられ、2つの美術館とマイヨールやロダン、ジャコメッティの彫像が置かれています。面積は28haもあり、ルーヴル宮殿の西端から始まりコンコルド広場まで続く広大なフランス式庭園です。夏には移動遊園地も設置され、メリーゴーランドや観覧車、綿菓子などが楽しめる。様々な魅力にあふれたチュイルリー公園は、パリの中心で自然・芸術・ノスタルジーを感じられる人気の観光スポットとなっています。しかし、ここにはかつて国王の宮殿がありました。チュイルリー公園の歴史(1):瓦工場の跡地に造られた宮殿
名前のチュイルリー(Tuilerie)はフランス語で「瓦工場」という意味で、かつてこの場所に瓦の製造工場があったことに由来しています。宮殿建設のきっかけは国王の死でした。1559年、ヴォージュ広場(旧宮殿)で騎馬試合をしていたアンリ2世が事故で亡くなります。国王の事故死の原因となった旧宮殿を忌み嫌った妃カトリーヌ・ド・メディシスはルーヴル宮殿の西隣にあった瓦製造工場の跡地に新しく城館を造ることを命じました。建造が始まったのは1563年でしたが、完成したのはアンリ4世の時代でした。1664年にはルイ14世の指示で、ヴェルサイユ宮殿やヴォー・ル・ヴィコント城を手掛けた造園家アンドレ・ル・ノートルによって散歩道が整備され、1667年に一般公開されました。美しいフランス式庭園で、当時は多くの貴族たちが豪華な衣装を着て歩く場所だったそうです。しかしその後、王の住まいはチュイルリー宮殿からヴェルサイユ宮殿へと移ります。チュイルリー公園の歴史(2):フランス革命後、公共公園に
フランス革命下では、ルイ16世がヴェルサイユ宮殿からチュイルリー宮殿へ一時的に居を移しました。また逃走先のヴァレンヌで捕えられたルイ16世が軟禁された場所にもなったそうです。フランス革命後、チュイルリー公園は誰もが入れる公共の公園となりました。その後も政治の変遷とともに様々な支配者が宮殿を利用することになります。1800年には皇帝ナポレオンが本拠地をこの宮殿に置き、その後はルイ18世、ルイ=フィリップ、ナポレオン3世が王宮として利用しました。チュイルリー公園の歴史(3):宮殿が破壊され、公園だけが残った
19世紀には行商人の声や馬車の騒音を聞かなくてよい静かな場所として人気の散歩場所になりました(19世紀当時、パリで気軽に散歩を楽しめる場所は驚くほど少なかったのです)。しかし1871年、宮殿はパリ・コミューンの兵士たちによって爆破されて焼失し、その12年後に取り壊されました。そして今は広大な庭だけが残っています。目の前にあるカルーゼル凱旋門は、チュイルリー宮殿の入り口として第一帝政期から使われていたもので、唯一残る宮殿の痕跡です。園内にある2つの美術館
またチュイルリー公園は園内に美術館が2つあることでも知られています。1つ目はオランジュリー美術館。元々は1852年にナポレオン三世が建設した温室(フランス語でオランジュリー)を改装した建物で、セーヌ河岸に沿って走るボー・ドゥ・ロー散策道の先にあります。自然光の差し込む楕円形の部屋でクロード・モネの連作「睡蓮」が大胆な構成で展示されていることで有名です。弱まりつつある視力と戦っていた晩年、モネは大作「睡蓮」の制作に取り組み、それをフランス国家に寄贈することを決めました。彼が望んだのは最後の作品「睡蓮」で部屋全体を飾る美術館を作ることでした。彼の死後、その夢はオランジュリー美術館として実現しました。2つ目はジュ・ド・ポーム美術館。リヴォリ通りと並行して走るフイヤン散策道の先にあります。こちらもナポレオン三世の時代に建築を元にした美術館で、名前の由来は建物内にジュ・ド・ポーム(テニスの前身となった球技)のコートがあったことから。印象派を始めとする近代美術や写真、オーディオ設備を使った映像芸術などの展示を行っています。首相の提案により実現したモネの「睡蓮」
モネの作品『睡蓮』をオランジュリー美術館に展示することを提案したのは当時の首相ジョルジュ・クレマンソーでした。彼は第一次世界大戦時に任期を務めたフランスの首相で、大戦終結時にヴェルサイユ条約に調印したことで知られています。彼はモネの昔からの友人で、二人は芸術を通して情熱を分かち合っていました。『睡蓮』を国家寄贈したいというモネの依頼を受けたクレマンソーはその実現のために動きましたが、政治的な問題に阻まれて、その企画はなかなか進みませんでした。しかし数年後、クレマンソーはチュイルリー公園内にあるオレンジの温室をモネのための美術館にすることを提案します。ようやく最適な展示場所を見つけたモネは、視力を失いつつある中で画家人生をかけてその連作を制作。そして作品の完成に取り組んでいる途中、1926年の終わりにモネは息を引き取ります。彼の死から一年が経った1927年、晩年の傑作『睡蓮』を展示したオランジュリー美術館が誕生しました。
夏限定の移動遊園地
6月から8月の期間、チュイルリー公園に移動遊園地がやってきます。この巨大な縁日は、フランス人のノスタルジーを体験するのに最適の場所です。園内では観覧車やメリーゴーラウンド、回転ブランコ、各種アトラクション、露天などがひしめき、原色のおとぎ話のような世界がパリの中心に現れます。たくさんの露店も出店され、綿菓子(Barbe a Papa)やワッフル、リンゴ飴など、子供が大好きな派手でカラフルなお菓子の屋台が並びます。日本で言う夏のお祭りのような雰囲気で、多くのパリ市民が夏の夜を純粋に楽しむために訪れます。巨大観覧車からはエッフェル塔などのパリの名所を一望でき、パリ観光の記憶になります。園内は入場無料ですが、各アトラクションに乗る際にはお金がかかります。パリに遊技施設のほとんどないパリの子供たちにとって、夏の楽しみの一つとなっています。公園前にある豪華ホテル「ル・ムーリス」がリノベーション
チュイルリー公園の前には、パリ随一の豪華ホテルであるル・ムーリス(Le Meurice)があります。1835年開業のパリで最も歴史のあるホテルであり、19世紀には世界各国の王侯貴族を迎えました。19世紀当時、パリの旅行者が快適に過ごせるホテルはル・ムーリスをおいて他にありませんでした。郵便馬車でパリにやってくる観光客のほとんどは、ある程度のお金を持っていましたし、迷うことなくル・ムーリスを宿に選んだそうです。チュイルリー庭園に沿って続く通りの先にはまだ建物の少なかったシャンゼリゼ大通りが郊外に向かって伸びていました。当時のホテルの部屋から窓からは、今はなきチュイルリー宮殿が美しい庭園の中に立っている光景が見えたはずです。現在もル・ムーリスは世界中から多くの観光客を迎えています。パリでも数少ないパレス(5つ星のさらに上のランク)に選ばれたホテルであり、その設備の豪華さと優美さは、ここだけでしか味わえない至福の宿泊体験をもたらしてくれます。2019年7月には大幅なリノベーションが行われ、18世紀フランスの宮殿をテーマにした客室に改装されています。ル・ムーリスに泊まり、窓からチュイルリー公園を眺めるのは、パリでできる最高の贅沢の一つであることは間違いありません。
ムーリスにまつわる画家ダリの秘話
モーリス・ド・ブラマンクやマリー・ローランサン、ジョルジュ・ブラックなどの20世紀フランスで活躍した画家たちの多くがル・ムーリスの顧客リストに入っていました。その中でも最もインパクトの強い顧客の一人がシュールレアリスムの画家サルバドール・ダリでした。彼は一年に少なくとも1ヶ月はホテル・ル・ムーリスに滞在していたそうです。シュールレアリスムの画風で知られる彼の行動も超現実的でした。ダリはアルフォンソ13世の使用したスイートルームをアトリエに変貌させました。ある日、彼は羊の群れを自分の部屋に連れてくるように要求しました。群れが部屋に到着すると、ダリはピストルを取り出し、群れに向かって撃ったそうです。幸運にも銃に装てんされていたのは空の薬きょうでした。あるときは、馬を要求しました。またあるときは、ホテルのスタッフにチュイルリー庭園でハエを捕まえてくるように依頼し、ハエ一匹につき5フラン(約1ユーロ)を支払いました。彼は何人かのホテルスタッフと非常に仲が良くなり、クリスマスのチップとしてサイン入りのリトグラフをプレゼントしました。王侯貴族だけでなく、芸術家に関してもル・ムーリスの逸話はたくさんあります。
自由な公園としての魅力
チュイルリー公園の魅力は庭園と美術館だけではありません。噴水の池ではリュクサンブール公園と同じく子供たちが小型ヨットのおもちゃ遊びに興じます。園内に無造作に置かれた椅子ではパリジャンたちが自由に自分だけの時間を過ごしています。パリ中心にある観光地としてだけでなく、誰もが気軽に自由に過ごせるのがチュイルリー公園の魅力。少しマニアックですが、園芸専門のオシャレな書店リブレリー・デ・ジャルダンも人気です。夜は他のパリの公園同様に柵で閉ざされてしまいますが、閉園前の闇に沈むチュイルリー公園もまた美しいのです。- パリ観光基本情報
- チュイルリー公園 / Jardin des Tuileries
- パリの観光地
- オープン(完成):1667年
- 住所:113 Rue de Rivoli, 75001 Paris
- 最寄メトロ:Tuileries(チュイルリー)、Concorde(コンコルド)
- エリア:ルーヴル美術館周辺
- カテゴリ:パリの観光スポット
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