ポンピドゥー・センター

ダイナミズムにあふれた現代アートの工場
ポンピドゥー・センターはパリ4区にある現代アートを中心とした複合文化施設。マレ地区に隣接したボブール地区にあります。館内には図書館や美術館、シネマテーク(映画の上映施設)、コンサートホール、音楽・音響研究所、デザインセンターなどの文化施設が入り、この建物自体が一つの「文化育成都市」のような空間になっています。その最大の特徴はパリで最も奇抜な建築ともいわれる外観。未完成のカラフルな工場を思わせるこの施設は、レンゾ・ピアノとリチャード・ロジャースによって設計され、1977年に開館しました。当時の最新技術を駆使して造られたこの文化センターは今でも新しいパリの代表的な観光スポットとして有名。地元のパリジャンはポンピドゥー・センターを愛情を込めて「ボブール」と呼んでいます。建物に張り巡らされたチューブの秘密
ポンピドゥーセンターが工場のように見える理由は建物の周りにむき出しに設置された排水管のようなチューブです。カラフルなチューブは配管・空調設備、透明なチューブは来場者が各階に移動するための通路の役目を持っていて、来場者は透明なチューブに囲まれたエスカレーターに乗ることで外側から美術館の構造を体験することができるデザインになっています。またアクセスのための通路や設備を施設の外側に設置することで、内部空間を展示スペースのために最大限利用することが可能になりました。
ポンピドゥー・センターの歴史
ポンピドゥー・センターのオープンは1977年。設立のきっかけは当時のフランス大統領だったジョルジュ・ポンピドゥーでした。ジャンルにこだわらずに優れた芸術作品を集めたセンターを作りたいという大統領の発案に基づき、ポンピドゥー・センターの建設がスタートしました。設計したのはレンゾ・ピアノとリチャード・ロジャース。当時はクラシックなパリの街並みとミスマッチな機械工場のような外観に対して否定的な意見も多かったようですが、今では最も成功したフランス文化省の公共施設となっています。「新しい空間」を生み出した2人の建築家
レンゾ・ピアノはイタリアを代表するハイテク建築家の一人。銀座のメゾン・エルメスや関西国際空港、IBM移動展パヴィリオン、米国ヒューストンのメニル・コレクション美術館などを手掛けています。リチャード・ロジャースもハイテク建築の旗手として知られるイギリスの建築家です。彼らは建築を最先端技術を集めた動的な場所としてとらえ、完成しない無限に展開可能な空間を目指しました。そのような建築に対する全く新しい発想がポンピドゥーセンターを生み出しました。
SF的な発想から生まれたポンピドゥーセンター
もともとポンピドゥーセンターは最新テクノロジーがもたらすSF的な視覚的イメージからインスピレーションを受けて造られました。未来志向の視覚的イメージを作ったのは「アーキグラム」と呼ばれた革新的な建築家グループでした。イギリスの建築家ピーター・クックが提唱した「プラグイン・シティ」は組み換え可能なユニットが巨大な構築物に取りついていく変容する建築を提唱し、ロン・ヘロンは都市自体が昆虫のように歩く「ウォーキング・シティ」を考えました。従来の建築志向とは大きく逸脱した自由な発想からポンピドゥーセンターが生まれたと言えるでしょう。
ヨーロッパ最大の20世紀美術コレクション
ポンピドゥーセンター内の近代美術館(4階・5階)では印象派より後の現代絵画をメインに展示しています。20世紀から21世紀にかけて制作された世界のアート作品約14万点を所蔵。展示される絵画は現代美術の傑作ばかりで、フランスにおける現代アートの中心的施設になっています。5階はアンリ・マティス、パブロ・ピカソ、フェルナン・レジェ、マルク・シャガール、アンリ・ルソー、ジョルジュ・スーラ、ジョアン・ミロ、サルバドール・ダリ、イヴ・クライン、ワシリー・カンディンスキーなど、20世紀初頭に活躍した画家たちの作品を気軽に見ることができます。4階ではマルセル・デュシャンやアンディ・ウォーホル、ニキ・ド・サンファルなど、1960年代から今日までに制作された現代アートのコレクションを展示しています。毎年話題を呼ぶ斬新な企画展示でも有名です。ヨーロッパ最大のメディアテークは学生に人気の施設
ポンピドゥーセンターのメインとなる公共情報図書館(BPI)はヨーロッパ最大のメディアテークと言われています。1階から3階までのフロアが図書館になっていて、40万点におよぶその大規模な蔵書は無料で閲覧でき、約2000もの閲覧席ではいつも多くのフランスの学生たちが熱心に勉強をしています。もちろん学生だけでなく旅行者でも利用できるので、広々とした図書館でパリの学生気分を味わうこともできます。 また本だけでなく世界各国のテレビ番組や音楽CDなどのマルチメディアも豊富。300紙の新聞に200誌の雑誌を見ることができます。ほかに無料インターネットサービスもあり、旅行中の情報収集にも便利です(1階受付でチケットをもらうとネットにつながったパソコンを利用できます)。視覚障害利用者や読者初心者、個人研究者向けのサービスも充実しています。 注意が必要なのは図書館の入り口。ポンピドゥー・センターの正面(広場から入る美術館の入り口)ではなくルナール通りにある裏口から入場します。これは図書館のセキュリティチェックが厳しいため、図書館に入るのにはいつも長い列ができるから。美術館と同じ入り口にしてしまうと、列が2倍になって混雑してしまうからなんですね。それにしても図書館に入るのに列ができるなんて、行列好きの日本でさえ考えられません。パリ中心部を一望できる大パノラマ
ポンピドゥー・センターの魅力は美術館と図書館だけではありません。建物の外側に設置されたチューブ型のエスカレーターを上ると、見えてくるのはパリのパノラマ。センターの最上部からはエッフェル塔やサクレ・クール寺院、ノートルダム大聖堂など、パリの歴史的建築物を見渡すことができます。パリの中心にいながら、パリ全体を見渡すことができる貴重な観光スポットです。館内にはガラス貼りのレストランもあり、パリの景色を眺めながら美味しい食事をすることもできます。
隣にはルーマニアの有名彫刻家のアトリエがある
ポンピドゥー・センターの隣にはルーマニアの彫刻家コンスタンティン・ブランクーシのアトリエ(L'atelier Brancusi)が保存され、無料で入ることができます。ブランクーシは1876年にルーマニアで生まれました。1904年にパリのエコール・デ・ボザール(国立美術学校)に入学し、1916年にはパリ15区に自分のアトリエを構えます。ロダンの元で修業をしていた時期もありました。ブランクーシは亡くなる前に全ての作品をフランスに寄付します。そのときに自分のアトリエを再現するように国立現代美術館に要請し、ポンピドゥー・センターの設計者であるレンゾ・ピアノによって忠実に復元されました。光の入り具合や作品の配置にまでこだわって再現されたアトリエは、作家が制作に励んだ静謐な空間を生み出しています。ブランクーシの代表作は『空間の鳥』で、どの作品も極限までに抽象化されています。そんなブランクーシ独自のスタイルが貫かれた彫刻作品は見る者の想像力を刺激します。ポンピドゥー・センター付近の観光で時間に余裕のある方は是非訪れてみてください。
パフォーマンスや路上アートも見られる!パリ観光の中心地
ポンピドゥー・センターは。ボブール地区の中心にあり、東側はマレ地区です。パリ観光の中心部という好ロケーションのため、パリ市庁舎やノートルダム大聖堂にも近いのも魅力です。またポンピドゥー・センター前の広場では毎日大道芸人が観光客のためにパフォーマンスを行い、近くのストラヴィンスキー広場では機械仕掛けのユニークな噴水が観光客の目を楽しませてくれます。周辺にはカフェも多く、休憩にはもってこい。もうひとつのポンピドゥー・センター
2010年にはフランスのロレーヌ地方の中心都市メッス(Metz)にポンピドゥー・センターの分館が完成しました。日本人建築家坂茂とフランス人建築家Jeans de Gastinesのグループが設計した建物で、本館以上に奇抜な外観になっています。駅から見えるほどアクセスもよく、絵画、写真、彫刻、ビデオなどあらゆる形態の現代アートを展示しています。パリからTGV(フランスの高速鉄道)で2時間弱。日帰りで行けるのでパリ観光の際にプランに入れてみてはいかがでしょうか。パリのポンピドゥー・センターは夜21時(木曜は23時まで!)まで開いているので、メッスの分館を見学した後にパリにもどって本館を見るというのも可能です。2025年から改修工事のために閉館へ
ポンピドゥーセンターは2025年夏頃から大規模な改修工事のために閉館される予定です。1977年にオープンしたポンピドゥーセンターは現在老朽化が進んでおり、以前より維持管理のために施設改修の計画が進んでいました。工事期間は5年間で、その期間ポンピドゥーセンターは完全に閉鎖されます。改修の主な目的は老朽化した施設のリニューアルで、外観の改修やバリアフリー化、省エネ化、防火対策、アスベスト除去、アクセシビリティの改善対策などが施される予定です。またコレクションの見直しや館内にある公共情報図書館(BPI)の改修、そして実際のアートとデジタル技術を組み合わせたフィジタル体験ができるテクノロジーにも力を入れると言われています。新しい施設の設計はパリを拠点とするモロークスノキ建設設計事務所が選ばれ、改修工事にかかる費用は2億6200万ユーロ(約420億円)と想定されています。美術館にこれほどの費用と期間をかけて大規模な改修するのは世界的に見ても珍しく、それだけにポンピドゥーセンターのリニューアルにかける揺るぎない意欲が感じられます。計画当初は開館50周年の節目となる2027年に再オープンがされる予定でしたが、2024年のパリ五輪期間中も開館できるようにするため、工事開始の延期が決定されました。マラク文化大臣によれば今回の改修によって「1970年代とはまったく異なるフランスとアートの生態系が提示できる」とのことで、2030年のリニューアルに世界中のアート愛好家が注目しています。コレクションは郊外の新美術館で展示予定
工事期間中、絵画など約14万点の美術コレクションはパリ郊外に新しく建設される美術館「ポンピドゥー・フランシリアン・センター」(Centre Pompidou Francilien)に移転される予定です。場所はパリ東部の郊外にあるエソンヌ県マシー市(Massy)で、2026年夏にオープン予定。面積は30,000平方メートルの3階建てで、美術品の倉庫も併設された大規模な施設になる計画です。館内ではポンピドゥーセンターに収蔵されていた美術品の展示だけでなく修復も行われ、アートの保存・研究のための専門センターとしても使われる予定です。この郊外美術館の設立はポンピドゥーセンターの代替機能としての役割だけでなく、最近のパリにおける文化の一都市集中化を避け、フランス各地に文化の中心を分散化する狙いもあるとのことです。また休館中、ポンピドゥーセンターはフランス国外に新しくオープンする分館の準備にも力を注ぎ、2025年にブリュッセル、2026年にアメリカ・ニュージャージー州に開館予定になっています。- パリ観光基本情報
- ポンピドゥー・センター / Centre Pompidou
- パリの観光地
- オープン(完成):1977年
- 住所:Place Georges-Pompidou, 75004 Paris
- 最寄メトロ:Rambuteau(ランビュトー)、Hotel de Ville(オテル・ドゥ・ヴィル)
- エリア:ボブール
- カテゴリ:パリの観光スポット
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